【レポート】「私はいま、ふるさとを知る。」梅中美緒

2011年の自然災害は異常だ。そろそろ四季がなくなるかもしれない。
台風12号による激しい雨が日本中に降り注ぐ中、東海道線のボックス席から車窓をぼんやり眺めながら横浜へ向かった。

『被災地の漢たち』シリーズ初回、釜石市復興プロジェクトチーム参与・岩間正行さんのトークショーに参加した。内容は、朝鮮戦争に始まる高度経済成長期の鉄特需から湾口防波堤の存在意義、震災前の釜石市の防災対策から仮設住宅の現状にまで及ぶが、震災当日からの行動履歴が興味深い。生々しくも、震災から半年近く経った今だからこそ表現される、ある種客観性を帯びた被災地のリアルがそこにあった。
往々にして、現場から離れた研究者よりも最前線で汗をかき続ける現場人ほど前向きで快活であるように思う。現場の最前線で走り続ける、まさにトップランナーである岩間さんの生の言葉をいくつか紹介したい。

退職まであと20日。震災当日は現場にいて、揺れは感じたが海抜7mまでは来ないだろうと思っていたら現場の人間が逃げてきた。その日は金曜で、翌日は仲間と釣りに行く約束をしていた。

―釣り竿が流されたことが一番残念だった。

2~3日後、家のある大槌町まで戻った。普段は沿岸の道を10km走るだけの通勤路だが、内陸側100kmを迂回した。

―何が起こっているのか理解が出来ず、涙もでなかった。

早々に復興プロジェクトチームを5名で立ち上げ活動に乗り出した。動きやすいように役所内のポジション取りも整理した。建築家とも早々に連携し、元々都市計画をお願いしていたコンサルに調査依頼し熱いスタッフが動いた。

―走りながら考えればいいと思った。

繰り出される言葉たちは現地の圧倒的なスピード感はもちろんのこと、三陸の優美な山と壮大な海の風景、かつての大煙突群から煙が高々しく上がる製鉄所の活気、『漢』たちを陰で支える奥さんたちの表情までもが思い起こされるような空気をまとっていた。

今回の震災で、人はみな自らがあまりに無力であることを感じた。そうでもないよ、という強靭な精神の持ち主もいるかもしれないが、少なくとも私はなぜ自分が医者や看護師でないのかと悔やむことがあった。瓦礫を運び続けられる屈強な男性でも、ユニクロやサントリーの社員でもなければ、孫正義でもレディー・ガガでもない。

もちろん主催しているアーキエイドは震災発生直後から行動に移し、あまりに大きなネットワークを立ち上げたのだが、全国数百万人の建築に関わっている人間がそれぞれ、自分のすべきことは何か、その時間や深度に違いはあれ多少なりとも迷いを感じ、少ないボキャブラリーで繰り返される机上論のループに陥ったのではないだろうか。

そんな時、岩間さんのような現場に生きる人の『顔』や、自らの課題として考え続ける学生たちの『顔』を思い浮かべることが出来ると、たちまち今見つめるべき方向へ身体を連れ戻してくれる。この『被災地の漢たち』シリーズは、現場の確かな『顔』と、聞き入る学生の真剣な眼差しを同時に見ることが出来る好企画だと思う。

聞き手の塚本由晴さんから「“ふるさと”をつくる」というキーワードが出たが、まさに“ふるさと”という岩手の風景を前にすると、これといった“ふるさと”のない自分になにが出来るのか、そもそも“ふるさと”という概念が体の中にない人間が復興を考えても良いのかと思い悩むことがある。けれども、呑ん兵衛横丁で酔っ払っている通りすがりの関東人といきなりマブダチになれちゃう釜石の懐の深さは、涙が出るほどあたたかい。

第5回に登場する宝来館の女将・岩崎昭子さんに釜石の道端でばったり会うことがあった。噂には聞いていたのだが面識はない、にもかかわらず話をしたい一心で走って追いかけると、車を止め、「私たちはまだ津波の中にいます。バカと言われてもいい。たくさんの夢を描いて!」と笑顔で語ってくれた。実際に津波に飲まれた時の壮絶体験とまったくの同列で放たれる未来は、あまりに明るい。現場のリアルが、そこにあった。

新・港村を出ると、数名の男女がみな同じ方向を見て立ち止まっていた。
台風が過ぎた横浜に虹がかかり、心地よい港風が吹いていた。

梅中美緒
株式会社日建設計

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被災地の漢たち フライヤー

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